たそかれ/川辺/想い出


 陽が傾き、空の支配者が代替わりをしようとしていた。
 水面に燃えるような夕陽が煌き、まるで血を流し込んだかのような色をしている。沈みゆく太陽と共に熱が地表から失われ、ぞっとするほどの冷たい風が吹き抜けていく。
 紅に染まる冬木大橋のたもと、川辺の公園のベンチにギルガメッシュは一人座っていた。常に華やかな男が、今はただ赤い世界に溶けこむように茫洋としている。
 それを偶然見つけたは、朱く染まるその光景に声をかけることが出来ず、そっと同じベンチに座ってその隣で佇むだけしか出来なかった。ピタリと寄り添うようことがほとんどだが、今日は不思議とほんの少し距離が離れている。その空間がまるで心の距離のように感じられ、少女の口数も彼に問いかけることが出来ずに減っている。
 常に前を向く視線はうつむき、その仕草と夕暮れに染まる彼の金糸が、何故か孤独を感じさせる。伏せられた灼眼に何も出来ず、ただは口を強く結んだ。雨雲のようにどんよりと曇った気持ちを押し込める。
 きっと、ギルガメッシュはなにか過去の記憶に思いを馳せている。はそう直感していた。たそかれ――誰そ彼と、この夕陽が沈む世界に問いかけているのかも知れない。おそらくその想い出は、彼にとって苦いものなのだろう。
 一体何を恐れているのだろうか、かの英雄王ともあろうものが。しかし問いかけようにも、そのための言葉を少女は持ち合わせていなかった。
 幾度目かの冷たい風が二人の体を撫でていく。着実に夜へと色を変える街並みに身を震わせ、強い戸惑いを曖昧な笑顔に変えて彼へと向けた。

「――ギル様」

 の声に、ようやく男は視線を彼女へ向ける。まるでの存在にたった今気づいたかのように、僅かに驚愕を映す瞳を覗き込みながら、少女は唯一言を返した。

「おなかへったよ。一緒におうちへかえろう?」
「……王に意見するとは」

 ギルガメッシュは尚も何事か台詞を紡ごうとしたが、珍しくも言葉が続かなかったらしく、何かを思案するように僅かに黙る。男の唇から溢れるであろう次なる言の葉を、少女はじっと待ち続けた。

「――まあ、良いわ。我も腹が減った。帰るぞ
「うんっ!」

 くっ、と皮肉げに口の端を持ち上げて、腰掛けていたベンチから立ち上がると、後ろを振り返ることなく歩き始める。ギルガメッシュの歩調についていこうと、はやや足早にその後を追った。
 その距離は先程のベンチよりも近いが、触れ合うにはわずかに遠い。まるでらの奇妙な関係を表しているようだった。

END


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