デート/お姫様/手を繋ぐ
「デートがしたいです」
ある朝、いつものように食卓を囲む朝食の席にて、キラキラとした眼差しでは唐突にそう宣言した。
あまりに脈略のない言葉に、ランサーは食んでいたオムレツを半ば丸呑みにしつつも、半眼になりながら訝しげに問いかける。
「何がどうしてそうなった」
「イリヤが士郎お兄ちゃん達とわくわくざぶーんでデートしてきて楽しかったと言ってたの。いいなあって思ったの」
「デートの意味わかってるか、」
「皆と楽しく遊ぶことじゃないの?」
「うん、惜しい」
違うの? と不思議そうに幼い主人は小首を傾げる。
ああ、やっぱり微妙に勘違いしてやがるな、とある意味安心する槍兵だったのだが、もう一人のサーヴァントの方はこれまたいつもどおり、やや斜め上に少女の望みを受け止めていた。手にしたフォークをまるで剣のごとく掲げ、高らかに宣言する。
「主の望みを叶えるのはサーヴァントの努めだな。よし、よ。この世で一番のデートを味あわせてやろうぞ!」
「まて金ぴか。お前はお前で何するつもりだ」
「我を金ぴかと呼ぶな、雑種ハーフ! アルスターでは先達に畏敬を込めることもせぬ野蛮な国であるのか」
「へぇへぇ、わかりました英雄王サマよぉ。で、どうすんだよ?」
プンスカ怒るギルガメッシュを適当にあしらいつつ、彼の皿に盛られていたウィンナーを一本拝借する。奪われた王はその簒奪行為を気にする風でもなく、お返しとばかりにランサーが取り分けていたブロッコリーを手にした獲物でかっさらうと、素早く己の口に放り込んだ。
「そうだな――さしあたっては筆頭株主としてわくわくざぶーんを連日貸し切りにし、我とを存分に満足させるような施設も作らせ…
ああ、フェイカーどもは料理の腕だけであればそれなりのものであったな。奴らブラウニーズに出店の支度なども任せて、それから――」
「ヒト様を巻き込むな!!」
相変わらずの傍若無人なプランニングをぺらぺらと語るギルガメッシュの頭を、ベシッとひと叩きしてランサーが黙らせる。教会に馴染めば馴染むほどツッコミ技術が上がっている気がしないでもない。確信犯ボケ、天然ボケ、素ボケと三拍子揃った連中に囲まれていれば、自ずとそうなるのだろう。
「どこか行きたいってならオレらが連れていってやるよ」
「ほんと?! じゃあわくわくざぶーんがいいなぁ」
「任せとけ。財布もいるしな」
そう言ってランサーは隣に座る英雄王を見やる。ダイレクトに財布呼ばわりされた黄金の王は、トーストをかじりながらぴくりと肩を震わせた。
「株主だってんなら、優待券くらいあるだろ」
「なぜ貴様が仕切る」
「テメェに任せたら斜め上にしかならねぇからだよ」
それに、と声を潜めてランサーが目配せをする。その視線に僅かに眉を寄せ、耳をそばだてるギルガメッシュにだけ聞こえるようにごく小さく槍兵はつぶやいた。
「――に気付かれねぇうちにこっちが主導権握っとけ。
嬢ちゃんのことだからな…… ”皆で楽しく”には、間違いなく言峰の野郎も含まれてんぞ。お前見たいのか、言峰がわくわくざぶーんにいるところなんかよ」
男の言葉に、ギルガメッシュの表情が強張った。
常夏を思わせるライトがきらめく屋内遊泳アミューズメントパーク。空気すら輝きを帯びているような空間に、黒点のような男が一人。場所が場所なので当然水着姿。あれで身体は鋼のように鍛えている男だから、惜しげも無く晒されたそれは自然人目をひくだろう。その上でいつもの薄い笑みを携え佇む姿は――なるべくなら見たくないと素直に思えた。あの男が同伴するとなれば、間違いなくの意識は彼にも向けられるに違いあるまい。
にじみ出た額の脂汗を無意識に拭いつつ、鷹揚にギルガメッシュは納得したとばかりに頷く。
「うむ。貴様にしては最良の判断であったと褒めてやろう。ありがたく思え」
「じゃあ――」
「今日にでも行くとしよう。思い立ったが吉日というやつだな」
「ギル様もランサーもありがとう! すっごくうれしい!!」
「よしよし。うちのお姫様は素直で何よりだ」
なんとか円満な方向で話がまとまりかけ、内心ランサーがホッと胸を撫で下ろしかけた次の瞬間、思わぬ方向から次なる一撃が飛んできた。
「あ、そうだ。イリヤがもうひとつ言ってたんだけど、デートでは手を繋ぐものなんだって」
繋いでくれる? と照れくさそうに片手を差し出してはにかむ少女。その言葉を合図にしたかのように、サーヴァント二人の間では火花が飛び散る。
結局、右手と左手があるんだから片方ずつで折り合うまで、無言の牽制が両者で繰り広げられたのは別のお話。
END
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