014:ビデオショップ
行きつけのビデオショップ。
続きが気になっていたビデオを数本選んで、いつものようにレジへと並ぶ。
いつもと違うことと言えば――
「いらっしゃいませー。会員証はお持ちでしょうか?」
にこやかな営業スマイルを浮かべる、目の前の店員が知り合いだって事だろう。
「――ウチの高校、バイト禁止じゃなかったっけか?」
「…仮にも不良って言われてるアンタが、校則なんか持ち出さないでよ」
「それもそーだな」
「まぁそう言うこと。担任には秘密ね」
手馴れた手つきで彼女は手続きを済ませていく。
ふと、その手が止まった。目線をパソコンのディスプレイに固定したまま、やけに眉間に皺を寄せている。
ようやく作業を再開させるも、その手は振るえ――そう、まるで笑いを堪えているようだった。
「…………十文字様」
「――ンだよ」
どうも知り合いから”様”付け何ぞで呼ばれると、むず痒い。
接客マニュアルどおりに彼女はやっているのだろうから、そのことに罪はないのだろうが。
「本日入荷したての『どきっ☆ 懐かしのアイドル水中騎馬戦・ポロリあり♪』はよろしかったでしょうか?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
瞬時にして十文字の顔が朱に染まった。それと同時に、もカウンターに突っ伏して声を殺しながら肩を震わせている。
「テッメ――履歴見やがったなっ?!」
「不可、効力ッ…でしょー、あははは……腹の底から笑えないって、つらーい」
「いっそ笑ってくれた方が、ナンボか気が楽だよこっちもッ!」
「お客様、店内ではお静かに願いマース」
何だか微妙に外人(しかも似非)口調で注意されては、ますます頭に血が上ると言うものだ。
羞恥と怒りが半々の顔色のまま、乱暴にビデオの入った――今日は普通のものばかりだ、念のため――袋を引っつかんで立ち去ろうとする。
「まーまーまー。十文字君、ちょっと落ち着いてよ」
「うるせぇ。もう二度とこの店はこねぇ」
「それは困るなー。あ、そうだ! 100円割引クーポン、十一枚つづり上げるわよ?」
ひらりとこれ見よがしには制服と共に身につけていたエプロンのポケットから、クーポンを取り出す。
その甘美な提案に、怒りのままに歩みだそうとしていた十文字の足もぴたりと止まった。
高校生ゆえ、少ない小遣いは効果的に使いたい。
近所にはこの店以上に品揃えのいい店もないし、ここは申し出を受けることにした。
「他の連中には言うんじゃねぇぞ」
「OKOK。あたしのバイトのコトいわない限り、言う気はないわよ」
「ふん――
、テメェここはどれくらいシフト入ってるんだ?」
「大体週末の夜かな? ちょっと稼げればいいだけだから、そうたくさんは入ってないわよ。部活も在るし」
「そうか」
脳裏に『週末の夜は絶対ここには借りにこない』と焼き付ける。
「結構ね、このバイト面白いのよー。
例えば――ホラ。向こうにいるちょっとヤクザやさんっぽい人」
「ああ」
「あの人ね、実はメチャクチャ動物好きでさ!
エロビデオの間にはさんでもってくるのよ。普通逆でしょ?!」
「…逆だな」
そんな話を聞かされた日にゃ、世の中のヤクザ屋さんの後ろに「ワンにゃん大集合!」と書かれたプリティな看板の幻が見えそうになってしまう。
「後面白かったのは、めっちゃくちゃ髪染めてていかにも暴走族ヤンキーなお兄さんが”ディズニー全集”を借りにきたときは――ありゃもう、拷問ね」
「爆笑なんかしたら…」
「ボコられそうだしねー」
あっけらかんと笑うは、その顔のままポンポンと十文字の肩を叩く。
訝しげにその様子を見ていると、はこれまで彼が見た覚えのないような”イイ”笑顔でこういった。
「だからさ、あたしは十文字君が実は妹萌え属性が付いていたところで、ずっと友達でいるよ!」
「ちょっと待て! そのビデオは俺の趣味じゃねぇ!」
「またまた〜。隠さなくったって、別にいいのに〜」
「だーッッ!! その無闇に爽やかな顔をヤメロッ!」
の十文字への見解が改められることは果してあるのか。
誤解を解くために、彼の多大なる苦労があったことだけはここに記しておこう。
END
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