042:メモリーカード
いつも明朗快活なが、今日は見る影もなく凹んでいた。
それでも、どんよりとした表情で業務をこなしている辺り、マネージャーの鏡である。作業効率は通常時より流石に下がっているが。
そんな彼女に叱咤を浴びせるもの、心配するものなど様々だったが、それでもの様子が変わることはなかった。
「一体どーしたってんだよ」
「あ、十文字君…」
「珍しいじゃねぇか。てめえがそんなにヘコんでるなんてよ」
「あははは… 何でもないわよ」
寂しい笑顔でそう答えるに、十文字はイライラとした様子で彼女の頭を叩いた。
「いたっ」
「バーカ。そんなんで誤魔化されっかよ。
何があったんだよ。いうだけ言ってみろ。ひょっとしたら気が紛れるかも知れねぇしよ」
「…何か無駄に今日優しいわね。気味悪い」
「――心配してやってるってのに、その言い草かよ」
半眼で心底不審そうに聞き返してくるに、同じような調子で十文字も返す。
「ジョーダンよ、冗談!
まぁいうだけ無駄だろうけど――実はさ、昨日プレステのメモカにお茶こぼしちゃって」
「…そいつは――災難だな」
「しかもよりによってその中に入っていたデータが、数十時間かけたRPGのクリア直前データでさッ!
あたしの時間と手間と思い入れを返せー!!って感じ」
一旦激昂したものの、その後すぐに沈静化してガックリと肩を落とした。相当はその事が悔しかったのだろう。
ふと、何かを思い出したように十文字が聞き返してきた。
「それ、なんのデータだ?」
「えーっと… FFとスタオ。特に悔しかったのは海チョコボ入りのデータでさー。生まれさせるために何十時間粘ったんだか」
「…確かその海チョコボデータなら、この前コピーをお前から貰った覚えが――」
「えっ、そーだったっけ?!」
「おう。自慢タラタラだったから覚えてるぜ。間違いない」
十文字の台詞には即座に飛びついてきた。両の二の腕をがっと掴み、頭一つ半分ほど上にある彼を見上げてくる。
「それホント?! 絶対間違いない??!」
「あ、ああ」
「やったー!! あのデータなら、クリア目前だし!
早速今日部活終わりにアンタのうちに行くから! OK?」
「いやいやいやっ! ちょっと待てって、落ち着け」
「大丈夫、アンタの部屋のエロ本なんかに興味はないから」
「おまえどーしてそう言う方向にばっかり俺のイメージあるんだよ!」
既にパターンと化してきた二人のやり取りに、三兄弟の残りの二人は当然として、他の部員からも生温い視線で見守られている。
この二人のやり取りの結果は――後日改めての家に十文字が行くことに落ち着いた。
END
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