082:プラスチック爆弾



「とかって、持ってたりする?」

 と、は尋ねてみた。
 部室の側らには愛用のマシンガンを手入れする先輩の姿。
 むやみやたらに重火器類を所持する彼ならば、もしかしてと思ったのだ。

「持ってる――って言ったらどうすんだ?」
「見てみたい!」
「はぁ?」
「よくさ、ほら。スパイ映画とかでガムみたいにして見張りの目を誤魔化してたりするじゃん!
 だから一度どんな風なものか、実物が在ったら是非見てみたいと」
「…相変わらず、馬鹿だなテメー」

 心底呆れ返った声音で、ヒル魔は言った。
 だがその反応を予測していたのか、は怯まずに尚も続ける。

「いいじゃない! ちょっとした好奇心くらい」
「へーへー。
 …そうだな、俺の部屋まで一人で来る度胸があるんだったら、見せてやらないこともない」
「へ、その程度でいいの? んじゃ行っちゃう!」
「…………お前、意味判ってるか?」
「何が?」

 即答するに一瞥をくれ、徒労の息を盛大に漏らすとヒル魔は手入れの終わった銃口を彼女に向けた。

「つまりだ。自分は美味しく頂かれても文句は言いませんってことだよ、糞後輩」
「―――ッ!!」

 ギラリと黒光りする先端に、真っ赤な林檎のようになったの顔が映る。
 どうやら意味を理解したらしい。やはり先ほどまでは自覚が無かったようだ。

「俺らくらいの歳になれば、男の部屋なんかに単独で行くのがどういう意味になるのかちっとは考えとけ。
 あ、勿論自分の部屋に連れ込むのも同様」
「そんな相手いないわよッ!!」
「ホ〜ウ。寂しいもんだな」
「くーっ、ム・カ・ツ・ク!!」

 だからアンタなんか先輩って思いたくないのよッ――と、捨て台詞を吐き、は大股で外へと出て行く。

「知らぬが華、いやむしろその方が都合がいいがな」

 ケケケと、悪魔じみた笑みを浮かべながらヒル魔は懐から例の手帳を取り出し、の項目に新しく書き加えた。

 『彼氏なし。未経験者。無謀。からかうと至極面白い。』――と。

END


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