065:冬の雀
冬の空は高く、空気は冷たく透き通っている。
生物が眠りにはいる季節だというのに、今朝も雀は元気よく空に羽ばたき鳴き声を響かせていた。
その様を何を語るでもなくぼんやりとは眺める。
「いいなぁ」
ボソリ、と呟かれたそれは何を示しているのかまでは把握できなかった。彼女の隣で同じように空を見上げていたランサーは視線を上に固定したままで尋ねる。
「空でも飛びたいのかい、嬢ちゃん」
「うん、それもあるかも」
は短く答え、そしてもう一度先程と同じように鳥を羨んだ。場には静けさと鳴き声が戻る。
暫し考え込むように眉を顰めていたが、何か思いついたのかすっくとランサーは立ち上がった。そのまま有無を言わせぬ速さでの首根っこを掴む。
「ぅえ?!」
「んじゃまあ、気分だけでも味わってみるか?」
ひょいと横抱きにすると、そのまま疾風の如き素早さで地を駆ける。が何か抗議するより早く、ランサーはひょいひょいとジャンプして――気づいた時には教会の屋根の上にいた。
抱きかかえられたまま、下をそっとのぞいてみる。高い。思わず寒さではない身震いを起こすほどだ。ぎゅっとランサーの首筋にしがみ付いて、彼の顔を見上げる。
「ん。そのまましっかり捕まってろよ」
彼はニカッと笑った。人好きのするその表情はの好むところではあったが、この状況では悪い予感しか感じることが出来なかった。
まさか――と言葉を紡ごうとしたその時、トンッと青い獣が屋根を蹴る。一際強く感じる浮遊感を一瞬味わい、次幕には圧倒的な落下が襲い掛かってきた。
「うわわわわわっ!!」
耳元で唸る風、身を切るような冷たさ。傍にある熱源に一際強くは縋った。それに答えるように、僅かに抱いているランサーの手に力が篭る。
体験したことのない感覚。その恐怖の中でも好奇心が勝ったのか目を瞑る事は出来ず、縦に流れていく景色に目を見張った。
秒にして十秒ほどだった自由落下は、グラリと身体を襲う揺れをもって唐突に終わる。再びを拉致したものを仰ぎ見れば、得意げに彼は言った。
「…鳥のようにとはいかねェが、こういうのも悪くないだろ」
とすん、と優しく地面に帰される。離れる腕を少しばかり残念に思いながらも、これだけは言わねばなるまいとは口を開いた。
「悪くはないけど、いきなり紐無しバンジーはビックリしたよ」
「ははっ、そりゃそうだ」
悪かったな、とランサーは笑いながら謝って、の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回した。
Ex-1:金ぴか
「空を望むとは、雑種の分際で分相応な」
「いいじゃないー!」
むぅっと頬を膨らませるを嘲りながら、ふと王様の脳裏にひらめきが走った。
「――よ、その願い我が叶えてやらんでもない」
「えっ、ほんと?!」
先程とは逆にぱあっと表情を輝かせる。そんな彼女を手招き、もう一方の開いた手で《王の財宝》を漁る。
近付いてきたに、引っ張り出してきた《天の鎖》を有無を言わせず彼女の身体にぐるぐると巻きつけた。一方的な無体を仕掛けられたはわけも判らず目を白黒させている。
見事なまでに鎖で巻かれた様に満足げに頷くと、ギルガメッシュは鎖の端をしっかりと握り締めた。
「うむ。では行くぞ」
「――え、え、えええーーーーーっ!!?」
ぶぅんっ、と豪快な音を立ての小さな身体が宙を舞う。そのまま弧を描くように風を切ったかと思うと、唐突にそれがとまった。ゆらりゆらりと振り子の動きをする己が身体を自覚し、伸びた鎖の先を見れば電線に引っかかっている。…どうやらこの鎖は電気を通さないらしい。そうでなければ今ごろ痺れまくっているはずだ。
ぶらぶらと揺れの勢いが収まるのを待つの耳に、なんだかえらく得意げな金ぴか様の言葉が聞こえてきた。
「どうだ、空の味は」
「……理不尽の味がする」
だって宙吊りだし。
そうぼやくも、我様な英雄王には理解できぬのか「貴様こそこの我がわざわざ手を貸してやったのに理不尽な奴め」と言い返されたのであった。どっとはらい。
Ex-2:麻婆神父
「気合を入れれば魔術で飛ぶこともできるぞ?」
そう言って、言葉通りに言峰は重力に逆らって見せた。――10センチほど。
その光景をクルリと180度ほど身体を回転させて視界から抹殺し、代わりに現れた青い男にはこっそりと呟いた。
「…不本意だけど、ランサーのが一番マシだった」
「他の二人がマトモじゃないだけな気もするが…ま、褒められとくぜ」
END
真っ先に金ぴか&麻婆で思いついて、これじゃいかんと槍にシフトしました
多分神父は嫌がらせです
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