人生を左右する要素の一つとして『運』というものがある。
何かにつけて運の良い者、またその逆の者とが確かにいる。
ギルガメッシュのそれは、余人と比べずとも相当に良かった。
――まあ、極一部。極端に悪い運もあったが、金運を筆頭にトータルで考えれば最高ランクに近い運の持ち主だ。
そうなるとおおよそ運に左右される物事につけて有利である。例えば双六、例えばババ抜き。みみっちいと言う無かれ。ゲームであれなんであれ、すべての勝負事に端っから強みを持っているということなのだ。
そんな手合いに対抗するには何が必要か。技術か、力か。否、そのどれでもない。目には目を幸運には幸運を。要は彼以上の幸運の持ち主をぶつければよいわけである。
だが、早々に彼に対抗できるほどの幸運の持ち主というものがいるとは限らない。それが一般論。
英雄王が悔やむべきは、彼を上回るほど宿星の良さを持った者が極身近にいたことである。
「こいこいー!」
「…ぐっ、その自信が仇となるぞ」
無邪気な声で追い討ちをかける少女に、対峙する男がだらりと汗を流す。
座布団を挟んで差し向かい片膝を立て、広げるは雅なる華の札。様々に描かれたるその札の多くは少女の側に揃い、対して彼の持つ者は少々華やかさにかけていた。
具体的にいうと。の役札は花見に月見に雨四光、ギルガメッシュはあと二枚で何とかカス上がりが出来るか? といったところである。ちなみに少女の手元にはその他に赤短と猪鹿蝶がリーチ状態で控えており、それらを揃えるためにこいこいをかけていた。
誰が持ち込んだのかは定かでは無いが、ここ暫らくは花札三昧であった。宝具は持っていないので、通常ルールのみでのやり取りなのだか――それだけに単純な運勝負になると彼女は強かった。無欲の勝利、というのであろうか。
そうこうしているうちに、ギルガメッシュのターンが終了した。結局藤のカス札一枚とタン札しか取れず、形勢逆転カス上がりでの即死防止も出来ずじまいだった。最も英雄王たるものがそんな下賎な役で保身を図るとも思えないのだが。
対するはというと――
「ちょうちょを取って…勝負ッ!」
あっさりと猪鹿蝶を完成させ、タネ札も五枚を超えて、あれよあれよと一勝負で二十文越え。何をどう足掻いてもギルガメッシュの一発負けである。
「じゃあギル様の負けだから、今度はそのシャツだね」
「…王に二言は無い」
言いつつ、すっかりとまあ苦虫を噛み潰しまくった表情ではあったが、潔くギルガメッシュはシャツを脱ぎ捨てる。鍛えられた上半身を惜しげもなく露出しつつも、中身はいつものとおりの我様であるので、
「――次だ。次こそは我が勝ってみせるぞ!」
「負けないからねー!」
べしべしと八つ当たり気味に床を叩きまくるギルガメッシュに、にこにことこちらもいつものように愛らしく笑いながら札を配る。
ちなみに本日の対戦成績は五戦五勝でが一方的に勝利を収めている。一方的に負け続けているギルガメッシュの傍には脱ぎ散らかしたアクセサリーやジャケットなどが散乱していた。
「――って、ちょっと待たんかいっ!!」
バーンッ! と、大袈裟な効果音を背中に背負って、ミスターアルバイター・ランサーが登場する。長けた敏捷性を惜しげもなく発揮し、一瞬の内にらの傍まで駆け寄ると、迷う事無くギルガメッシュの後頭部をはたき倒した。
瞬間の出来事に虚でも疲れたか、ものの見事に床との距離をゼロにさせられた英雄王は、バネの如く跳ね上がって槍兵に抗議する。
「いきなり何をするかこの雑種ハーフ!!」
「それはこっちの台詞だ留年王ツッコみ役がいないのイイ事に脱衣花札やらかしてやがんだテメェはーッ!!」
ガァーッ! と肺の空気を全て吐き出すかのようなノンブレス台詞に、僅かに英雄王が言いよどむ。
「む……良いではないか、我が負けているのだから」
「言い訳にもならねェ言い訳するな! つーかいい加減も学習しろ!!」
「え、でも楽しいよ? それにさすがにいっぱい負けたら降参もするし」
「オレが楽しくないからやめろ。賭けるのは洋服じゃなくて、明日のおやつくらいにしとけ」
危機感知センサーゼロの少女に、もうほとんど懇願に近い勢いでランサーが告げる。多分今ここにちゃぶ台があったら、心の赴くままに彼はそれをひっくり返していただろう。
第六感というか虫の知らせというか、そういった類の何かに急かされて帰宅を早めて良かったと、心底からランサーは思った。とってんからりのぷう。
END
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