澄み渡る空は蒼く高く、風は心地よく吹き付けてくる。
並べて本日晴天、行楽日和なり。
春めいた陽気の中、穂群原学園では学生イベントが一、体育祭が催されていた。生徒教師共に一丸となって準備を行い、その行いが報われたのか本日は大変運動に適した陽気となっている。
メインの参加者は無論生徒ではあるが、見物に来るものはその限りではない。近隣住民もかたや暇つぶし、かたや家族の応援などなどと様々な理由をもって見学に訪れている。彼女らもそのうちの一人だった。
「士郎おにいちゃん、応援に来たよー!」
「ああ、いらっしゃいちゃん。小さいほうと一緒に来たのか」
「こんにちは。教会の皆さんは皆さん生憎と手が塞がっていまして… さん一人と言うのも危なっかしいですから、ボクが監督役です」
手と手をつないで並んでいる姿は、髪や瞳の色は違えど、まるで歳の近い兄妹のようでもあった。金の髪の少年の正体さえ知らなければ、素直にほのぼのとできる光景だろう。
少女の名前は、少年の名前はギルガメッシュ――共に新都の小高い丘の上に立つ教会に住まうもの達だ。
「ちょうどいいところに来たな。今から昼休みなんだけど、一緒に弁当食べないか?」
「わ、いいの?」
「おう。まあ、ちょっと賑やかだろうけど…」
「ああ、タイガさんやサクラさんたちがいらっしゃるんですね。食事は賑やかなほうが楽しいものですよ」
「ならよかった。じゃあ、俺に付いてきてくれ」
『はーい』
意図したわけではないのだろうが、ギルガメッシュとは声を揃えて同意する。毎度毎度思うことなのだが、この小さい王様のまま育っていれば割と平和だろうになあ、と士郎は密かに心の中で嘆息した。
※ ※ ※
食事処は、想像以上に賑やかだった。面子としては衛宮一派オールスターであるのだが、そのためにとにかく各々の手持ちが豪華だった。
対セイバー用なのか、まず量が多い。しかしそれでいて質は落としていない。遠坂の専属執事が参加しているためか、それに対抗でもしたのだろう。一般的な家庭の体育祭向け弁当の域を軽く脱していた。士郎製作の俵型おむすびと五目いなり寿司を中心とした、お手本のような豪華幕の内。
対して、アーチャー作のそれは彩りにも優れた中華風折り詰めだ。いつぞや冷めた中華料理は反則的に不味いと誰かが言っていたような気はするが、その観念すら覆す出来映えである。
そして真打の桜製作の弁当はサンドイッチを中心とした、行楽向けのラインナップである。一見して手軽に作れるように見えるサンドイッチだが、流石というべきか、具材は丁寧に仕込みをされたものばかりでバリエーションも豊か。そして何よりデザートにも余念が無い。
和洋中、全てに対応したパーフェクトとさえいえるお弁当達を前に、何より喜んでいたのはセイバーと藤村だった。はむはむこくこくと微笑ましくも素晴らしいスピードで食していく前者に対し、後者は賑やかに品評も加えながら食べ進めていく。製作者にとってもいっそ気持ちのいいくらいの食べっぷりである。
ご相伴に預かるとギルガメッシュの手には、紙皿に取り分けられた数々の品々が並んでいた。どうしても食べたいものは先にキープしておかないと食べ損ねるぞ、というアーチャーからの助言に従った結果である。
「そういえば、この体育祭には一般からの参加は出来ないんですか?」
「え、出るのか?」
「見て応援するものいいでしょうが…出来れば参加する楽しみも欲しいですね」
「うんうん!」
「まあ、あるにはあったと思うが…プログラム見てみるか?」
好奇心旺盛な二人組に、士郎は若干物が挟まったような口振りでプログラムを差し出した。
受け取ったプログラムを二人揃って眺める。既に午前の競技は終了しているので、眼を通すのは午後の部だ。ややもせず、ギルガメッシュが声を上げる。
「あ、これとか外部からの参加者も出れますね」
「……二人三脚障害物競走だぞ」
それは、午後開始直後の競技だった。ルールは簡単。ペアを作って、コース上に設置された数々の障害物をクリアしていく。その際には必ず片足を布等で結わえ、二人三脚の要領で競技に挑まなくてはならない。
そう――今年の体育祭実行委員が張り切りすぎた結果なのか、今回の催し物には一部妙な競技が含まれていた。二人三脚騎馬戦、二人三脚借り物競争、二人三脚玉入れなどなど…無駄に二人三脚まみれのやらかしちゃった感溢れる競技群である。外部参加者メインの障害物競走もその一つだ。おのれ薪寺。
ちなみに、午前に行われた二人三脚騎馬戦は開始直後に多数の騎馬が脱落――当然、足が縺れた事が主な原因である――したために、ノーゲーム扱いとなった。
「”混ぜるな危険”を混ぜるところが気に入りました」
にっこりと笑顔で言い切るその表情に、士郎の背筋が粟立つ。やはり小さくとも英雄王。いや、むしろこちらのほうが嗜虐にあふれているのかもしれない。
「まあ、エントリーするならこっちで届けを出すけどさ…一応止めたからな」
「大丈夫です。ボクとさんなら一位以外ありえませんから」
「がんばるよー!」
リンゴを突き刺したフォークを握ったまま、必勝の宣誓をする。当然だが迫力は0だ。むしろ微笑ましい。
まあ、ギルガメッシュが相手役であれば、少なくともが怪我をすることだけは無いだろうと踏み、士郎は諦め交じりに息をついた。
※ ※ ※
さて。結果であるが――順当にギルガメッシュ・コンビは一位をゲットした…が。
「で、何で大きいほうなんだよ」
「決まっておろう。こちらの方が運動能力が高い。参加するからには当然トップを取るのが王というものだ」
「ちゃんしがみつかせて走っただけだろ! ノーカンだ、ノーカン!」
「む、何故だ!」
「”二人三脚”してないだろがー!」
あえなくルール違反で一位取り消し、失格扱いとなった。
にとって『目的のために手段を取り違えると、痛い目に合う』という教訓になったとかならなかったとか。とってんからりのぷう。
END
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