聖夜の大騒ぎ
皆でクリスマスパーティをしよう! と、が言い出したのがクリスマス一週間前。突然と言っても差し支えなかったが、声をかけてみるとほぼ全員から了承の返事がきた辺り何処となく侘しさも感じたり感じなかったり。
閑話休題。結構な人数なので会場を何処にするかと最初に揉めたが、言い出したのはであるので教会となった。ただし、礼拝堂はクリスマスミサがあるので私空間である中庭をメイン会場に、という事に落ち着いた。
今日はクリスマス当日――昨夜から続いていた雪は、一晩明けてすっかりと街並みを銀世界へと変えていた。
所変わって教会内部のキッチンでは――
でん、とダイニングテーブルに陣取ったその物体には常より大きな目を更に見開き、キラキラと輝く熱い眼差しを注いでいた。
堂々と詰まれた段数は四つ、全身を真っ白に彩り、銀の粒と赤き果実を冠のように従えている。頂点にはそれらに加えて砂糖で作られた家や動物、そしてサンタクロースがちょこんと乗っている。
見上げるほどに大きなそれを前にして、少女の頬はリンゴもかくやとばかりに上気していた。
「――スゴい」
「我が準備したものだからな。当然だ」
言葉とは裏腹に、何処となく誇らしげにの隣りで金ぴか様がのたまう。自身の黄金律をフル活用して美味と評判の店に特注で作らせただけあり、そりゃあもう立派な立派なクリスマスケーキだ。
をはさんで反対側、ランサーも他二人と同じようにそれを見上げながらボソッと呟く。
「…つうか、こんだけむやみやたらにデカイと、見てるだけで腹が膨れそうだ」
甘いモノは嫌いでは無いが――流石にこの量はどうかと思う。
ぼやく槍兵をはっと鼻で笑い、英雄王はこれまた無意味に胸を張りつつ答えた。
「王たる我が雑種どもに負けるわけにはいかんからな」
「いや、そういう無駄な張り合いはしなくてイイから」
「そういえば…ランサーの用意したツリーも立派だったねえ」
「まあ折角だからな。偽物よりは本物の方がイイだろ」
パーティ準備は分担制と決まっていた。参加者それぞれに違う役割を振っていたのだが――その中で一番乗りをはたしたのが、ツリー担当のランサーだった。
アウトドア派な青年は一体何処から伐採してきたものやら一本のモミの木を準備していた。樹齢何年物だ、と思わず年輪を確認したくなるほど巨大で、これを目の当たりにした英雄王は妙な負けん気を発揮して前述のようなサイズとなったのだ。
上機嫌の少女は両脇の英雄達の事など忘れたかのように、視線はケーキに固定したまま弾んだ声で言葉を続ける。
「あとは士郎おにいちゃんたちのお料理だね! どんな物作ってきてくれるんだろう」
「――ターキーとミートローフは間違いないであろう」
「ああ。絶対あいつら無駄に張り合ってすごい手の込んだ物作るだろうしな」
ランサーとギルガメッシュは同じような幻を思い浮かべた。真っ赤な弓使いと正義の味方が、エプロンを装備しビシバシと火花を散らしながら調理をしている。
普通調理役は女性陣に任せるものだが、この二人と来たら立候補してまでそれを買って出たのだから、間違いなくこの想像は現実のものとなっているのだろう。
「ー、来たわよー!」
「あ、イリヤだ!」
ぱっとは振り向く。あわてて台所からパタパタと出て行くと、言峰にでも通されたのだろう。コートと帽子を装備した銀色の少女が中庭で仁王立ちをしていた。
「いらっしゃい、イリヤ!」
「お邪魔するわ。それにしても寒いわね、今日」
「そうだね。でも、みんながいれば暖かいから大丈夫よ」
「…そっちの台詞の方が寒いわ。らしいけど。
リン達少し遅れるそうよ。男二人が馬鹿みたく張り切ってるから、それに付きあってるみたい」
「そっかぁ。じゃあ先に飾りつけ始めちゃおうか?」
にこっと笑い、はイリヤの手を取る。少しだけそれに目を見開いたが、同じように冬の少女も小さな笑みを浮かべた。
「そうね、そうしましょ」
そういって二人は連れ立って駆け出してゆく。二人の事情を知るものが見たとしても、それは歳相応に楽しそうにする仲の良い友人同士としか映らないものだ。
台所から蒼と金色の青年が連れ立って出てくる。その前を、彼女らがきゃあきゃあとはしゃぎながら通り過ぎていった。その背を目を細めるようにして見る。雪に反射する陽光がそうさせたのかもしれない。
「…やることないし、手伝いにでも行くか?」
「ふむ…よかろう。あやつらだけでは間に合いそうにないしな」
言って、男達はゆっくりとした足取りで少女達の後を追う。
大変に騒がしく、そして賑やかな時間になるのは確実であろう冬のある日の朝の出来事――
END
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