たったそれだけの行為なのに。
 ほんの少しの踏み出しで、叶えられそうな願望なのに。

 俺にはそのほんの少しが、どうしても出来はしないのだ。



 034:手を繋ぐ



 手相を見てやるって理由はどうか?
 ――タイミングや話の流れを、どうやってそこまで持っていきゃいいんだよ。却下。

 俺の手って、結構大きいんだぜ。
 ――もっとデカイ――ついでに態度もでかい――奴がいる。却下。同じ理由で”男の割りに細い指”も却下。

 ちょっと熱っぽいみたいなんだよ。
 ――あまりに魂胆が丸見え。ちゃんなら気付かないだろうけど、その前に邪魔が入ること請け合い。残念ながら却下。


 とまぁ、こんな調子で。
 こんなんだから”ヘタレ”だなんていわれるんだよ、俺はッ!!

 自分自身の性根なんぞ、自分がよく知っているので言い返せないのが悔しい。
 そうさ、どーせ俺は骨の髄までヘタレ根性が染み付いてるさ!
 心中でそう叫ぶくらいが精一杯の抵抗だ。

「…大の大人が、情けない限りだぜ」
「大丈夫ですよ、それでこその木村さんですから」
「酷ッ! てか、いつから俺の隣に?」
「声かけても気付いてもくれないんですもん木村さん。眉間にぎゅーっと皺寄せてると、ハゲますよ」
「さらに酷!」

 大袈裟に驚いて見せると、ちゃんは「冗談ですよ」と明るい口調で答えた。判ってるさ、それくらいは。でもちょーっと、タイミングが悪いかな。
 ふぅ、と判りやすく溜息をついてみれば、案の定彼女は訝しげな顔をして訊ねてきた。

「んで、何でそんな難しい顔してるんです?」
「いやね、好きな女の子に手も繋ぐきっかけも作れない自分を情けなく思ってるだけ」
「…確かにそれは本気で情けないです。男としてかなり」
「だろー?」

 本人に、面と向かって言われるとかーなーり、痛いな。判ってはいたが。
 そっと涙を拭うようなリアクションをとったら、不意にちゃんは手を差し出してきた。
 え、このタイミングでそれって――もしかして俺の気持ち一美ちゃんにバレてる!?

「木村さん、握手しましょう!」
「い、いいけど…何で突然また」

 勢いに負けて反射的に手を俺も差し出す。
 その手を素早くとると、ぎゅっと優しくちゃんが握りってきた。わー、やっぱ柔らけぇ手!

「唐突に手を繋ぐのはちょっとタイミング的にもあれなんで、こうやって握手を求めたらどうですかね?」
「おー! そりゃいい考えだけどよ――初対面なら兎も角、そこそこ知り合いの奴だったら”握手してくれ”って言うのも、なんか妙じゃねぇか?」
「それは確かにそうですけどー」
「ま、いいや。いい知恵もらっらし。アリガトな」

 ぶんぶんとちょっと強めに手を振ってやると、ちゃんの腕もそれに合わせて動く。

「どーいたしまして! 手をつなげたらいいですね」

 無邪気に笑うちゃん。そーだな…繋げてるから、今十分俺は幸せだぜ。
 あー、我ながらなんて損な気質だろーな。

END


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