BIRTH オマケ
「ただいま」
一声かけて自宅の扉を開けた。手にはからのプレゼントのバンテージが入った袋を持っている。
妙な寝言で気が削がれた、というのもあるが――結局、眠る彼女を起こすのが忍びなく、メモを残して宮田はそのまま自宅へと帰ってきた。
リビングに入ると、父親が新聞を読んでいた。宮田が帰ってきたのに気付いたのかそこから目を離す。
「ああ、お帰り一郎」
「ただいま、父さん」
「何だ? ずいぶんと早かったな」
朝帰りとか期待していたんだが、と冗談めかしながら言うと、宮田は少しムッとして答えた。
この父親は、何かにつけてと自分とを絡ませようとしているのが息子ながらに謎である。悪し様に言われるよりはいいが、正直こういう扱いにも辟易する。そしてがそれに悪乗りするのも心臓によくない。
「…なんでそう言う方向になるんだよ」
「いやまぁ、お前にそんな度胸はないか」
「父さん!」
宮田父は息子をからかうように笑った。図星なだけにあまり強く言えないのが辛い所だ。
「向こうで何か食べたか?」
「いや、コーヒーを一杯もらっただけだよ」
「じゃぁ食事にするか」
誕生日だし、少し豪華だぞと言いながら父はキッチンの方へと向かう。
宮田は大きく息を吐くと、ソファにどっかりと腰をおろした。手にしたままのプレゼントが入った袋にちらりと視線を落とす。
バンテージ、折角だから明日から使わせてもらうか…
片手で袋を軽く中に放り投げながらそんな事を思う。
キッチンから夕食を持ってきた父は、テーブルにそれを置くと息子に声をかける。
「なあ、一郎。そろそろツッコミを入れたいんだが――」
「…何だい、父さん」
「それは…ワザとか?」
苦笑いをしながら、宮田父は自分の頭を指差す。
その仕草がピンとこず、宮田は首をかしげた。
「俺の頭に何かついてるのか?」
「ああ。リボンが」
「何ッ!?」
父親からの含み笑い混じりの指摘に、宮田が慌てて自分の頭を手探ってみると、確かにそれらしき手触りがあった。宮田はすぐにかきむしる様に取る。
そして、我ながらローズピンクのサテンリボンが可愛らしく結ばれていたのに、まったく気付かないでいた事に驚愕する。また同時に、こんな格好で帰ってきたのかと思うと羞恥が込み上げてもきた。
そんな息子の心情などお見通しだ、とばかりに、にやにやと性質の悪い笑みを浮かべて宮田父は告げる。
「さんにやられたみたいだな」
「…油断していたよ」
そうなのだ。そうだったのだ。
いくら寝顔が可愛いからと入ってもあの鷹村の”妹”分なのだ。
こんな悪戯を仕掛けてくるくらい予測できなかったものか…
否、それは無理だろうと宮田は思う。
の行動は突飛である。予測は限りなく裏切ってくる。
そんな彼女だからこそ、気に入っているのだ、宮田は。
「今度仕返しでもしてやろうかな?」
「…お前じゃ多分無理だ」
「だろうけどね」
苦笑して自分の頭に付けられていたリボンを解く。何気なく裏側を見てみると、そこには白いペンでこう書かれていた。
それを見て、思わず宮田の顔がほころぶ。
――HAPPY BIRTHDAY! Dear my Childhood
friend
…こういう可愛い所もあるんだよな。
「ま、いつか――勝ってみせるよ、彼女に」
必ずさ――と、宮田はそう言って笑った。
END
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