044:バレンタイン
  「これ見よがしに食堂で開ける編」



 これはもう、皆の前で大々的に開けるに決まっている。

 を想う者は結構な数なのだ。ここで彼女の本命は、実は私なのだということを、広く皆に知らしめておかねばなるまい。
 そう、普段のあのつれない態度は流の照れ隠しなんだ!

 そこまで脳内で光速の速さで考え、浮かれた足取りを隠すこともなくロイは食堂へと向かった。
 食事時を外してはいるが、それでもここは職員たちの憩いの場の一つであるので、結構な人数がそこにいた。

「あれ、大佐がここへ来るなんて珍しいっスね」
「ハボックか。いや…ちょっと思うことがあってな」
「へー…
 あ、どうしたんスかその箱。やっぱ誰かからのバレンタインの――」
「ああ。少佐からだ」
「嘘ッ!!??」
「ふっふっふ… 事実だよ、ハボック少尉。
 私の前で、恥ずかしさに顔を赤く染めて、小さく震える彼女は実に愛らしかったぞ」
「…………どんな天変地異の前触れッスか、それは」

 ボソッと小声で突っ込むが、そんな台詞は聴こえてないのかちょっと悦に入っているロイ。
 そんな二人のやり取りを聞いていたのか、周囲ではぼそぼそと「あの少佐がマスタング大佐に!?」だの「明日の天気は槍か爆弾か…」だの「俺狙ってたのに〜〜!」など、実にバラエティ豊かな意見が漏れ聞こえる。
 周りの反応に満足したのか、ふふん、と小さく鼻で笑ったロイは余裕綽々の態度でこう言った。

「まぁどのようなことを言われようと、あの少佐が私にこれを贈った事実は変わらんよ」
「…色々言いたいコトはあるんスけど――とりあえずそれ、開けて下さいよ大佐」
「ふっ、まぁそれほどまでにいうのなら、開けてやらないこともない」
「てかそれが目的っしょ、見せびらかすのが。
 いーからさっさと開けましょう」
「……お前といい彼女といい、何故私は上司扱いをされないんだろうな」
「そりゃ人望ってモンっスね」
「………」

 ロイとしても色々と言いたい事はあったが、ここはあえて沈黙を選択する。

 からバレンタインのプレゼントをもらえたのだ。それで十分ではないか――!

 そう自分自身に言い聞かせて、するりと小箱にかけられたリボンを解く。続いて包装紙を、少々手荒に取り除いた。
 そして小箱の蓋を開け、その中に入っていたものは――

「箱っスね」
「…箱だな」

 小箱の中には、もう一回りだけ小さな箱が入っていた。ご丁寧に、それにもきっちりラッピングが施されている。
 胸のうちに広がる、幾許かの希望と不安がせめぎ合う中、再びロイはそれを開けに取り掛かる。
 暫しの後、更なる小箱から出てきた代物は…

「…箱だ」
「…………」

 またさらに小さな箱が出てきた。勿論ラッピング済みである。
 その様子を遠巻きに見ている男子職員たちも、何となくオチが読めてきた。

「…兎に角、開けるぞ」

 絶望の色が濃くなってきた表情でロイは呟いた。
 最早周囲は笑いを堪えるのが精一杯で、粟を食ったように食堂を出て行くものもいるほどである。

 その後も出てくるのは、箱、箱、箱、箱!!
 ようやく最後の箱を開けた中に一枚の紙が入っていた。

「ハズレ」

 そう書かれた小さな小さな紙を手に、燃え尽きている大佐を生温く見つめ、ハボックは呟いた。

「マトリョーシカみたいな箱っスね、それ」
「…………喧しいぞ、ハボック」
「いや全く、感心しますよ。
 少佐の大佐イジメに対する情熱には」

 シミジミと呟くハボックに、ロイはただただ無言で突っ伏すのみだった。

END


続きものです