05. 給料日
誰もが浮かれる月末の給料日。支給された給金を胸に、人々がアレやらコレやらと思いを馳せる。
彼らもそんな人々の一員で。
「少佐、今夜呑みに行きませんか? いー店あるんですよ」
「少佐、かねてよりの誘い。今宵こそ受けてはくれないかね?」
目の前にいる上司と部下が、異口同音に彼女へお誘いの言葉をかける。
さて、その件の彼女――=少佐と言えば、困ったように笑うだけだった。
再三誘われているロイの誘いは、今回も問答無用で断るつもりではあるのだが…そうすると建前上ハボックの誘いも断らねばなるまい。
それでなくとも「少佐は何故かハボック少尉ばかり贔屓する」と、あらぬ噂をかけられ戸惑っているというのに。
まぁ、確かに端から見ればそう思われても仕方あるまい。
彼女とすれば、ハボックをロイ苛めのダシに使っているだけなのだが。コレは彼も認識済みのこと。
はてさて。どーしたモノか。
「両方断るってのはダメかしら?」
「何故君はそう即座に」
「せめてどっちか選んで下さいよー」
「えー… なんだか、どちらを選んでも私にメリットがなさそうなんだもの」
『奢りだとしても?』
何故だか息の揃った調子で、同じ言葉を口にする二人。給料日ならではだ。
思わず数瞬考え込んだが、ふうと少々重い息をついては答える。
「……それは魅力的なんだけど、その後がねぇ」
「俺は大佐みたく送り狼なんかになりませんって」
「決め付けか、ハボック」
「そうならない自信は?」
「……ノーコメントだ」
明後日の方向を向いているロイに、二人で冷たい視線を送る。この態度からして、狼になる気満々だったのだろう。
給料日は嬉しいが、このような誘いが増えるのはちょっと困りモノだとは内心溜息をついた。
なおもにらみ合いを続ける二人に頭を痛めていると、ふと妙案がの頭に閃いた。
「二人の誘いを受ける事は、やっぱり出来ないけど――私からの誘いなら受けてもらえるかしら?」
「少佐からのお誘いなら、何であれ喜んで受けさせてもらうよ」
「そりゃもう、もちろん」
二つ返事のロイとハボックに、にっこりと微笑む。
「明日の昼食、私の奢りでどうかなと思って。
マスタング大佐には日ごろの無礼のお詫び、ハボック少尉には日頃の労いを込めて。
ただし、軍の食堂でよろしければの話ですが」
「色気ないッすねェ」
「一言余計よ、ハボック少尉」
「こりゃ失礼を」
「コレくらいで勘弁してもらえませんかね、マスタング大佐」
「…まあいいだろう」
「あ、大佐の権限で食堂を貸切にするとかいう馬鹿な事はやめて下さいね。他の皆さんの大迷惑になるので」
「……わ、判っているとも。
そんな馬鹿な真似はしないさ。はっはっは」
乾いた笑い声を上げるロイ。どうも図星だったらしい。
やれやれと肩を落とし、呆れの眼差しをはロイへむける。
「明日を楽しみにしてますよ、少佐」
「ほどほどに手加減してね。そう高給取りってわけでもないんだから」
「足りなくなったら、大佐にたかればいいんですよ」
「あ、ナイスね! ハボック少尉」
「お前たちなぁ…」
いつもの調子で結託して大佐イジメに入る二人に、今度はロイが脱力する番だった。
END
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