013:深夜番組


 ごちゃごちゃと様々なモノが店内には溢れ返っていた。
 南米部族のものなのだろうか、酷く縦に長い、身体を覆わんばかりの楕円形をした原色で彩色された仮面。その傍らにはやけに穂先がさび付いている長槍。少し目線をずらせば酷く歪な形をした短剣に、どう見ても苦悶の表情を浮かべているようにしか見えないニンジンモドキ。
 かと思えば、美術的にも価値がありそうな青磁の壷。しっとりとした手触りの赤い聖骸布。どっしりと思いガントレット。妖しげな色が詰まった謎の小瓶。
 インテリアなのか、はたまた全てが商品なのか。この空間はそれらの線引きが酷く曖昧で、まず初見の客ならドアをあけた瞬間に硬直するか回れ右をするだろう。

 そんな店内に、三つの声が木霊している。一つは可愛らしい女性の声、もう一つはどっちつかずなハスキーボイス、もう一つは店主と思わしき苦々しい声。

「なんてーかさ、夜中ってテンション上がり易いじゃん」
「あ、うん。なんだか無駄に上がるよね」
「そうそう。しかもテレビ番組もさ、そんな感じだし」
「あー…確かに。独特だよね、ノリ」
「合間合間に流れるCMもやたらと洗脳率高いし」
「テーマソングとか反則級だよね。私、歌って踊れるよ、実は」
「オレ的にはアメリカンのノリが一番笑える」
「あ、ながされた。一樹君ひどーい」
「…で、言い訳はそれだけかい?」

 店主――甲斐史虎、通称フーミン。退魔師業界でも名うての術士であり、情報ブローカーであり、そしてマジックショップの経営者でもある。
 そんな彼に『買い取って欲しいものがある』と持ちかけてきたのが、今眼前にいる二人。甲斐は机上に並べられたそれらに目を落とし、痛むこめかみをグリグリとマッサージした。
 色好い反応ではないことを読み取ったのだろう。子供二人は少しばかり不安そうに彼を見据える。暫しの沈黙を破り、口を開いたのは一樹だった。

「……やっぱ、買取はダメか?」
「駄目に決まってるだろう! うちはこれでもマジックアイテムショップだよ!!」
「いやいや、でもこの『驚愕のぬっとり感! これで貴方もスライムマスター! スライム育成キット』とか凄くこの店にピッタリだと思うんだけど」
「そうそう、こっちのさ『腰が抜けるほどの吸引力・スーパーサイクロンストリーム 春の稚内風味』もイケるんじゃねぇ?」
「僕が言うのもなんだけど、そんなアヤシイ商品を買うモンじゃないよ、二人共」

 が、そして一樹が――お互いにお互いの持ち込んできた商品を売り込んでくる。しかしダブルで押し寄せるセールスを、甲斐はすげなくあっさりと、いうなれば音速で切り捨てた。

「だって…なあ、?」
「そうそう、見てたらなんかみょーに欲しくなって」

 ねー、と顔を見合わせ声まで揃え、無駄なまでのシンクロっぷりを披露しつつ子供らはへらりと緊張感なく笑う。
 その仕草がちょっぴり癪に障ったのか、甲斐は一際大きく声を上げた。

「とにかく! 買い取りは却下、いかに僕でも商売人としての誇りが――」
「今ならこの商品を買い取ると、もれなくトオル使用済みの阪神応援用半被をプレゼント」
「更に今ならボーナスチャンス、唾液付着可能性ありのメガホンもつけちゃう」
「よし買った!!」

 深夜番組の通販顔負けのセット販売商法に、彼の決断は光よりも早かった。

END


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