055:砂礫王国
「神父というからにはそれなりの教養はあるのよね」
唐突に投げかけられた言葉に、ラースは少しばかり眉を顰めながらも一応答えた。
「ま、一応な」
「文字の読み書きとか」
「当然だろ」
「聖書の暗唱は?」
「無理矢理やらされた」
「…オルガン」
「ああ、自慢じゃないがちっとは上手いぜ」
ラースのその台詞に、ぴたりとの動きが一時停止する。
そしてギギギと何年も油を差していない機械のようなぎこちない動きで首を傾げた。
「――ソレはもしや卑怯という卑怯が集う隠されし村に、代々ひっそりと伝承されているという幻の暗殺拳?」
「なんだそりゃ」
「いや、むしろ大八車で容赦なく轢くとか?!」
「モノによっちゃ巨大な据付型の代物をどうやって轢くんだよ」
呆れた溜息を盛大に吐くラースを尻目に、のテンションは自分を誤魔化すようにうなぎのぼりに上がっていく。
「ああ判ったわッ! 人を操るためとか!」
「…一応念のために言っておくが、フツーに弾くんだからな。日曜学校とか集会とかで賛美歌を謳う時に」
「だ、駄目よラース! そんなことをしては小瓶の底に封印されし72柱の魔王が復活してしまう!!」
「流石にちょっと待て! 何だってそんな反応なんだよ!!」
流石に聞き捨てならなくなったのか、裏拳を入れつつツッコミを入れる。
しかしは自分自身をかき抱くように腕を組み、ガタガタと震えながら尚も続けた。
「だ、だ、だって、オルガンですよ? 弾いちゃうんですよ?!
そんな末恐ろしいことがこの世にあっていいはずがッ!!」
「更に待てッ!」
微妙に口調すら変え顔面蒼白を絵にしたようなに、さしものラースも黙っちゃいられない。
むしろツッコミどころ満載の発言をこれ以上立て続けにやられる前に、イメージの修正を図らねばなるまい。
「そこまで言うんだったら、この俺の美技をまったりと堪能していきやがれッ!」
「いやー!! 絶対イヤ―!!
耳が腐って、ロボトミーになって、張子の虎になるー! 魔王の依代にされて鍋にされるー!!」
ジタバタと暴れるも襟首をがっちりと掴まれては逃げ出すことも叶わず、抵抗は無駄に等しかった。
かくて仔牛が切なげな瞳で売られていくかのように、ラースの手によりは音楽堂へと拉致されてた。
「俺様のオルガンを聴きやがれ――!!」
「へるぷみーーーーぃっ!!」
終わりの見えないリサイタルは一晩中続き、二人揃ってステンドグラスに透ける神々しい朝日を拝む羽目になる。
念のために記しておくと、魔王も出なければ操られもしなかった。
ラースの腕前は本人の申告通り存外上手く、その事だけが今でもの腑に落ちない点である。どっとはらい。
END
借金取り黒魔術士→外道黒づくめ勇者→
地域密着型退魔師→音楽で戦うロボットアニメ
の順番でネタを展開しています
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