071:誘蛾灯
「手塚、大石、菊丸、越前、そして…俺。
テニス以外で、この五人に共通するものが一つある。
さて――それが何だか判るか?」
「…テニス以外で? それ以外に何かあるのかい?」
唐突に出されたその問い掛けに、は首をかしげた。
「ああ。確信が持てるのは、この五人だな。
まぁ少なくとも…不二だけは違うと思うが」
潜在的に桃城や海堂辺りが該当しそうだが…まだ裏は取れてないんでね――と乾は付け足した。
いつもと同じ、表情の乏しい彼の顔を睨みつけ、は唸る。
「??? 余計わからなくなったよ。
どう考えても、うちの部員以外に共通点が思い浮かばない」
「思い込みってのは、時に自分の視野を狭めてしまう。
それは致命的なほどに、な。
だがまぁ…それがあって、人は人と言えるんだろう」
「…アンタにしちゃ、イヤに感傷的なものの言い方をするね」
「そうか?」
「ああ。珍しい」
大げさに驚いて見せる彼女に、乾は小さく肩をすくめた。
「――どちらにせよ、答えられなかったからの負けだ。
約束通り、俺の買い物に付き合ってもらおう」
「はいはい。で、一体何を買うだい?」
「そうだな…まぁ道々考えるとしよう」
「何だ、決まってるんじゃないのかい」
彼にしては意外な答えに、少々呆れながらも何処か可笑しくって口元を僅かにはゆがめた。
「ま、たまにはウィンドウショッピングってのもいいだろ」
「お手柔らかに頼むよ」
「勿論。存分に連れまわすつもりだ」
「はぁ〜〜。中々、大変なことになりそうだね」
くすくすと笑うに乾はちらりと視線を投げ、珍しくその顔に逆光ではない影を落とすと、小さく息をついた。
「いや…俺たちの日常に比べればそうでもないさ」
「ま、そーいやそうだね。うちの活動は厳しいから」
「…そう言う意味じゃないんだけどな」
「じゃァどういう意味だい」
「ヒ・ミ・ツ」
「………喧嘩撃ってるんだったら、買うよ。売値の三倍くらいで」
ちっちっち、と小刻みに人差し指を無表情に揺らす彼に、怒気も明らかにが威嚇する。
「冗談だ、冗談」
「まったく…」
はぁ、と大きく溜息をついて、はクルリと乾に背を向けた。
女性らしい緩やかなラインを描くその後姿を見つつ、ボソリと、しかしシミジミとした情感を込め呟いた。
「しかし――知らないってのは罪に等しい行為だと、つくづく思うよ」
「…ほんと、何か変なモンでも食べたんじゃないだろうね、乾」
彼の台詞に、本気で眉間に皺を寄せて尋ねる。
「いやいや。至って平常だぞ。ほら、もう秋も終わりだしな」
「ああ成る程」
「…そこでちょっと納得されるのも複雑だが」
アッサリと納得され、それはそれで残念なような、ホッとしたような気分になる乾だった。
END
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