072:喫水線  case.3/菊丸英二



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Q1.彼女との付き合いはどのくらいですか?

 俺がテニス部に入部してからだよ。今の部長とテニスの話しているときに、女子のマネージャーが来るって言っていたからどんな子だろうと思ったわけよ。
 可愛い子だったらいいにゃーって思ってたんだけど、先生から紹介されたのがちょっときつめの子だったんだ。
 あのころから平均より身長高かったし、中一にしちゃ胸もあってオトナっぽくて、何というか…ちょっと第一印象は悪かったかな?
 ああ、でもでも姐御っぷりはそのころはそれほどでもなかったかな?
 そうそう、いつだったか俺が部活の最中に目測誤って頭にボールを受けて脳震盪起こしちゃってさ。
 そのときの怒りっぷりは凄かったにゃー…

「何ボーっとしてたんだい、この馬鹿菊丸! 打ち所が悪くて死にでもしたら笑い事じゃないんだよ!」

 そのときは大丈夫だよって笑ったんだけど、それでも怒りが収まらなくってさー…
 なんでだろって考えてたらタカさんが教えてくれたんだ。
 母親が交通事故で亡くなったばかりだって。
 それも死因が頭を強打しての脳挫傷。
 あの時はまだあの子に興味なかったから、何で暫く部活にこなかったんだって位にしか思ってなかったんだよね。
 あ、もちろんすぐにお礼と誤りに行ったよ。
 そしたら笑って、あんたが元気ならそれでいいよって言ってくれた。
 それからかな? 俺が彼女のことを気にかけたのは。


Q2.彼女のことをどう思いますか?

 姐御! …って言ったらいつも怒られるんだよねー。

「あたしゃそんなんじゃないよ! 勝手に決めないどくれ」

 ってさ。もー言葉回しっからすでに姐御だと…ってこれ以上はやめとこ。
 えーっと… 料理上手で、結構優しくて、仕事もいつもてきぱきやってくれる。
 それからいつも皆の事見てるね。絶妙のタイミングでドリンクとかくれるんだ。
 夏の暑い日にみんなバテバテの時に差し入れだよって持ってきてくれたレモンの蜂蜜漬けはホントに美味しかったにゃー…
 料理上手なんだにゃって言ったら照れくさそうにありがとう、って言ったんだ。
 その顔がすっごく可愛くって思わず抱きついちゃったら大慌てしたっけ。
 最近じゃあ慣れちゃったのか動じなくなって寂しいんだよね…
 スキンシップもっとレベルアップしてみようかにゃ?


Q3.彼女のことを好きになった理由は?

 もともと、好みのタイプじゃなかったんだよね。実は。
 胸の大きな色気のあるお姉さまタイプならばっちりなんだけど、最初は当てはまるし美人ではあるけどけど、色気はないからにゃ。姐御だし。
 でも意外と可愛いところもあって、頼りになるし…



「ひっるめし・デザート・屋上でおっ昼寝〜♪」

 俺はそう歌いながら、昼休みの誰もいない校舎裏を駆けていた。
 体育の後片付けが長引き、お昼ご飯の時間が遅れていたのでぐうぐうとなる腹を押さえながら自分の教室目指して急いでいた。
 そんな途中で、ふと視界の隅に見覚えのある人物を見る。
 立ち止まってその方向を見ると――やっぱりいた!
 。男子テニス部唯一のマネージャーにして、生徒会副会長も勤める通称”青学の姐御”だ!(俺的解釈による。本人未承諾)
 せっかくだからちゃんも誘っておべんとをおすそ分けしてもらおう! ちゃんの煮物美味しいんだよね〜
 声をかけようと近づくと、なにやらちゃんは誰かと話しているようだった。
 悪いこととは思いながらも聞こえてくる音に耳を傾ける。

「――先輩! 俺、あなたのことが…っ!」
「…悪いけど、あたしの返事はよくないよ」

 う、うわ―――っ! これって告白現場ってヤツ!?
 慌てて俺は校舎の陰に隠れる。俺からはちゃんの姿が見えないから、これで向こうも俺は見えないはずだ。
 しっかし… 相手は誰だろ?
 なおも聞こえてくる会話に全神経を向ける。

「あたしはあんたのことを後輩以上には思えない」
「で、でも! 今好きな人っていないんですよね? なら俺でも――」

 この声は…確か二年の生徒会の生活委員長?
 そういえば最近よく一緒にいることが多いとは思ってたけど…
 まさかこんなところに出くわすとは思いもよらなかったにゃ。

「くどいよ。仮にもあたしのこと好きなら少しはこの性格知っているだろ?
 中途半端なのはいやなんだ。取りあえずとかそんな気持ちでいたら絶対駄目になる。
 それにあたしはそういった色恋にゃ興味がないんだよ。今は部活と生徒会と日々の生活で一杯一杯さ」

 きっぱりとそう言い放つちゃん。
 …これ以上もなく真正面から断ってるにゃ… でも、この上なくちゃんらしいといえばらしい。

「これ以上、何を言っても返事は変わらないよ。
 ヘタなことを言ってあたしをガッカリさせないでおくれ。あんたのことは結構気に入ってるんだからさ」
「…分かりました。もともと玉砕覚悟でしたし。
 でもこれで自分の気持ちがすっきり出来ました。これからも先輩としてご指導のほどよろしくお願いします!」
「ああ。いち友人としてこちらからもよろしくお願いするよ」
「……! ありがとうゴザイマスっ!」

 その台詞と同時に、土をける音が聞こえ徐々に遠ざかる。
 あーいう事を無意識に言うからちゃんって人気あるんだよな…
 さて、では見つかる前にここから逃げるとするか――
 そう思って忍び足でその場を離れようとした、まさにその瞬間!

「待ちな、菊丸」

 お、お見通しされてる!

「素直に出てこないと、今日の部活の時に…酷いよ?」
「で、出ます! 出てきます! 出させていただきます!」

 ちゃんの脅しにあっさり屈して慌てて転がり出る。

「にゃんで俺がいるって分かったの、ちゃん」
「なんとなくデカイ猫っぽい気配がしたからね」
「…なんか不二みたい」
「やめとくれよ! あたしとあんな人間規格外とを比べないでおくれ!」

 ああ、やだやだと首を振るちゃん。
 そんなこといってると何処かの物陰から不二がやってくるぞ。

「まあ、冗談はおいといて。
 あんたさっき歌いながらここに来てただろ? それが聞こえてきたんだよ」
「にゃるほど! それなら規格内に収まるにゃ」
「そうだろう? んで、どこからあんた聞いてた?」
「へっ!?」

 ずずいっと詰め寄ってちょっと怖い表情で聞いてくる。
 身長は俺のほうがあるから、見上げられてる状態なんだけど… 迫力あります。

「どこから立ち聞きしてたんだい?」
「えっ、えーっと… 後輩君が『先輩のことが…っ!』ってあたりから――」

 あまりの迫力に負けてつい正直に答える。
 俺の返答と同時にちゃんは大きく溜息をついた。

「それじゃあほとんどじゃないかい…」
「あー… そうだにゃー」

 ちゃんは「ああ、恥ずかしい」といっておでこに手を当てて表情を隠す。
 前髪をその手ですいて、赤い頬のまま伏目がちにそっぽを向くその仕草は、妙にそそられた。
 ちゃんって…こんな表情もするんだ…
 いつも自分に向ける表情は喜・怒・楽の基本表情と、抱きついた時に見せた焦った表情。しかしそれも最近は慣れがあるのか滅多に見せなくなってしまった。
 ちょっとだけ、振られた後輩君に感謝したくなった。少なくとも今の自分ではこんな表情をちゃんにさせることは出来ない。

「このことは、皆には黙っといておくれよ」

 まだ少し赤い顔のままちゃんがそう言ってきた。
 言われなくても黙っているつもりではあったが、ちょっといたずら心が働いて聞きなおしてみた。

「え? 別にいいじゃん。減るもんじゃなし」
「馬鹿。あたしは別に構わないけど、あの子がかわいそうだろ? ただでさえあたしみたいなのに振られてるんだ。そっとしておいてやんな」
「ふーん… まあいいや。言わなきゃいいんだろ?」
「そうそう。今の出来事は忘れるんだね」

 そう微笑みながらちゃんは言った。
 でも忘れろったって、そう簡単には忘れられないよ―― この数分の間に、俺の知らない君をたくさん知ってしまったから。
 さっきはちょっとだけ感謝した後輩君、やっぱり俺嫉妬するわ。だって、こんなちゃんの表情を引き出したのは他ならぬ、君。
 教えてくれたのは確かに事実だけど、やっぱり自分の行動がきっかけでこんなイイ表情もっと見たいもの。

「さ、菊丸。いつまでも不貞腐れてないで、さっさと着替えにいきな。
 でないと昼食食べ損ねるよ」
「あ――――っ! 忘れてた!」

 ぽんぽんと肩を叩かれ、我を取り戻す。
 そうだよ! 俺まだ体操着じゃん! 急いで着替えないとおべんと食べ損ねちゃう!

「屋上で食べるんだろ? 先に行って場所とっておいてやるから早く着替えてきな」

 先に歩き出すちゃんが校舎の屋上を指差す。

「うにっ!? ちゃんも屋上で食べるにゃ?」
「あたしも昼食まだなんだよ。それとも何かい? あたしが一緒なのはいやなのかい?」
「とんでもないにゃ! ちゃんのこと俺大好きだよ!」

 そう言って背中にいつもの様にがばぁっと抱きつく。
 あー… 至福だにゃー…
 後ろから抱きつくと微妙に二の腕あたりに胸の感触が伝わって気持ちいいんだよねー
 そうやって暫しの幸福を味わっていると、ちゃんがべちっと俺の腕を叩く。

「ええいっ! 毎度毎度鬱陶しいね、菊丸!
 あんた体育後なんだから汚れてんだろ? そんな状態で抱きつくんじゃないよ!」
「んじゃぁ制服の時は抱きついてもいいのかにゃ?」
「制服の時でも駄目だよ! あたしゃ暑苦しいのは嫌いなんだよ」
「それじゃあクーラーの効いた場所はー?」
「抱きつかれるのが暑いから却下!」

 俺が後ろから抱きついた格好のままちゃんはズルズルと引っ張るように歩く。
 そして結局、その格好のまま下駄箱まで辿り着いたのだった。
 周りの視線が集中して、ちゃんはものすごく恥ずかしそうだったけど俺はちょっと満足してた。
 だって、そんな可愛い顔をさせることが出来たんだからね!


 ――でも意外と可愛いところもあって、頼りになるし…
 うーん… ちゃんがちゃんだから好きなんだよね、俺は。
 あんな子、二人といないよ?


Q4.最後に、彼女はあなたにとってどんな存在ですか?

 絶対絶対俺の中でなくてはならないもの!
 俺の絶対条件だにゃ!



アンケートにご協力いただきありがとうございました。

END


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