044:バレンタイン
ロイは目の前の女性の行動を、信じられないものを見るような表情で見つめていた。
普段、階級が二つ上の自分に対して臆面も無く暴言を吐き、度重ねる愛の言葉にも見向きもせず、それはそれはにべも無い彼女――が。
どういったことなのか、気恥ずかしげに視線は泳ぎ、頬は熟れた林檎のように赤みを帯び、しどろもどろで言葉を告げている。
「あ、あのですね… えーっと…その――」
「な、なんだい少佐?」
「これ、受け取って…もらえますか?」
思い切ったように、勢いよく突き出されるそれは、可愛らしい包装に包まれた小箱。
本日は女性が日々の思いを込め、男性へ愛を告げる日――バレンタインデーということを踏まえれば、この中身は推して知るべし。
日ごろの状況から、全くといえば嘘になるが、彼女からプレゼントを貰える事は然程期待はしていなかった。
だが、奇跡は起こるのだ! と、ロイは声高に胸中で叫ぶ。
しかし。そのような態度をとって、万が一引っ込められては元も子もない。あくまで表面上は冷静を装い、自分の中で極上だと思う笑みを浮かべて対応する。
「ああ、勿論だとも。君から貰える物は、何でも嬉しいよ少佐」
「そんな――」
「…これは、この中に君の私への気持ちが込められたものだと、勝手に受け止めてもいいのかな?」
「も、勿論! 私もそのつもりですから――
手作りなんで、ちょっと不恰好なんですけど…いいですか?」
照れからなのだろうか、は視線をあからさまにロイから外してそう答える。
口元を片手で多い、普段からは想像もつかない可愛らしい態度のに、思わずロイはいっそこの場で抱きしめてしまおうか、という誘惑と必死で戦っていた。
理性と野性の狭間で、どうにかこうにか危ういバランスを保ちながら優しく笑む。そっと差し出された小箱を受け取り、ついでにさり気無く彼女の手に触れる。
「ありがとう、少佐。今日は私にとって記念すべきになりそうだ」
「それじゃ、私はこれでッ!」
ロイのその台詞と行動に、は弾かれたように彼の手を振り解いてその場から駆け去る。
そんな彼女がどうにも愛しくて、思わず締まりなくロイはその後姿を見送った。
そのまま降って湧いた幸運の余韻を暫らくかみしめ、数分後ようやく手渡された小箱を改めてまじまじと見た。
彼のイメージに合わせてだろうか。ブルー系で統一されたラッピングは、爽やかな中にも可愛らしさを感じさせるものだった。
ストライプの包装紙に、シンプルなサテンのリボンがかけられたそれを、何処で開こうかとロイは考えた。
1:これ見よがしに食堂で開ける
2:コッソリ執務室で――
3:この場で即刻開封
END
続きものです